サイン伝達(盗み)問題について
日本のプロ野球を始め、学生野球でも2塁ランナーがキャッチャーのサインを読み、それをバッターに伝達することが問題になっています。サインを読み、伝達すること自体、公にすることはもちろん間違っています。しかし、ランナーが2塁にいても、キャッチャーが簡単なサインを出してそれを2塁ランナーが読み取ってしまうのは、読み取るランナーの方が悪いのではなく、読み取られてしまうキャッチャー(バッテリー)の方が悪いのではないでしょうか。ある記事で、この問題に対する解決法は、「ランナーがキャッチャーを見てはいけない。」という意見がありましたが、こんなことはっきり言って無理です。何でそんなにサインを読み取る側が悪くなってしまうのか私には理解できません。ある意味、サインを読み取る、読み取られるのも野球の内だと思います。
では、どうしたらサインを簡単に読み取られなくなるか。まず第一にサインを複雑化することです。これにはキャッチャーもピッチャーも練習が必要ですが、プロ野球では日々行われていることです。プロ野球、もちろんメジャーリーグでは、複雑化してもそのサインを読み取られてしまうので、メジャーリーグでは、「ピッチコム」という、キャッチャーからピッチャーに公認のコミュニケーションディバイスを使ってサインが伝えられています。これは、キャッチャーが小さなどこにでも貼り付けられる小さなキーボードを体のどこかに装着し、球種とコースを入力し、入力された情報が、ピッチャーの帽子の中に入れてある薄いスピーカーから音で伝えられます。このスピーカーから流れる音声は、ピッチャーの話す言語によって替えることもできるようになっています。そして、このスピーカーは内野手にも装着できるようになっているので、野手もキャッチャーのサインを除かなくても、ピッチャーが投げる球種1球1球わかるようになっています。この「ピッチコム」は2022年シーズンから導入されましたが、その前までは、サインをより複雑化するために、毎日サインの種類を変えて、バッテリーに5、6種類のサインパッケージ(5、6種類のサインが記載されたカード)を持たせ、ランナーが2塁になるたびにそのカードの中から使うサインを選び、サインをいつでも変えられるような準備がされていました。これは、ピッチコムが導入された今シーズンも、ピッチコムの機械の不具合が起こった時のために、毎試合前ピッチャー、キャッチャーがサインパッケージのカードを持って試合に臨んでいました。しかし、メジャーリーグ、日本プロ野球などのプロのレベルでは、サインを複雑化しても、それを読み取る技術があり、ピッチャーとキャッチャーの間にコミュニケーションミスが多く見られ、キャッチャーの安全性も危うくなってきたこと、そしてキャッチャーが出した複雑なサインにピッチャーが首を振った時にかかってしまう時間の短縮のために「ピッチコム」が導入されたのだと思います。プロのレベルではこのディバイスの導入が必須になってくるのだと思います。
次に、ランナーのサイン伝達行動を規制するということがどれだけ不可能な事なのかを述べます。はっきり言って規制するのは無理です。なぜなら伝達方法は無限にあるからです。大きなジェスチャーで伝えることは明らか過ぎて、それがはっきりと見えていればそれは見ている人にも不快感を与えますし、伝達されているバッテリー、そしてチーム全体にも怒りが込み上げるのは当たり前だと思います。しかし、ランナーが小さな首の動き、手の動き、手の位置、第二リードのステップの仕方、などを変えることによってサインをバッターに伝達する方法は無限にあると思います。そして、サインがわかっていなくても、ピッチャーの集中力を欠くために、わざと如何にもサインを伝達しているような偽の動きをすることだって出来る訳です。この二つの理由から、規制は不可能なのです。
規制してもどれだけでも伝達方法があるので、サイン盗みが悪いという道徳を改めましょう。伝達をすることがずるいというきれい事を言って無理に規制するのはやめた方がいいと思います。学生野球ではあれば、明らかなサインを少し複雑化させる。球種の伝達ではないとしても、キャッチャーの構えたコースを伝達されているのであれば、キャッチャーが遅く構えれば良いだけの話です。キャッチャーにだって、投げる方向と全く違う方向に構えて、それを直前で構える動きを加えれば良いことですし、その複雑な作戦を踏まえて戦うのが野球なのではないでしょうか。全てを綺麗事に見せることに集中している学生野球連盟があるとすれば、私は断固として反対の意見を述べたいと思います。
サンフランシスコより
植松泰良